
QOLという概念がどのようにして生まれ、展開していったのか、1997年に出版された永田勝太郎先生の著書『こころを癒し からだを癒す 全人的医療の知恵』から、一部を抜粋してご紹介します。
QOLの歴史
「1964年に、アメリカの大統領であったジョンソン(Jhonson, L. B.)が、演説の中でQOLという言葉を使用した。それを機会に、QOLはその後の社会政策や、保健医療政策に盛んに使用されるようになった。したがって、当時の状況からすると、QOLは「生活の質」というニュアンスが強い。
1960年以前は、QOLを生活の量の延長上の問題としてとらえていたが、それ以降は、個人の人生における主観的な反応を中心に把握するようになってきている。
以後、QOLという言葉は医療界においても使われるようになり、リハビリテーション医学や外科治療の評価、またターミナル・ケア(末期医療)でも使われるようになった。すなわち、リハビリテーション医学では、その目的はADL(日常生活行動)からQOLへの転換と言われるようになり、外科治療では、慢性炎症性疾患においては、手術と内科的治療のどちらが患者にとって有利かを経済的側面も含めて議論するようになった(コスト・エフェクティブネス)。
ターミナル・ケアでは、残された時間の中で、いかに人間の尊厳を維持するかが積極的に議論されるようになった。
以上述べたように、人間としてのQOLをいかに尊重するかが医療界の重要なテーマになってきた。しかし、時代の変遷は、QOLという概念をもっと普遍化するように動いた。すなわち、特殊な医療現場だけではなく、高血圧や糖尿病、心不全などごくありふれた疾患(common diseases)の治療においても、この概念が必要とされるようになってきたのである。
これは1960年代後半から特に米国で、生命倫理(バイオエシックス)運動という市民運動の盛り上がりの中から当然の如く発生してきた。
その実践のためには、いかなるストラテジー(方策)を講じるべきか、その模索が世界中で始まった。その一つの、そして最大の答えが、全人的医療である。それは大きな潮流(メガトレンド)となって、世界の医療を席捲するようになった。」
引用:『こころを癒し からだを癒す 全人的医療の知恵』永田勝太郎, 海竜社, 1997, p.29-31