
永田勝太郎先生のご著書『〈死にざま〉の医学』より、実存療法的な芸術療法についてご紹介します。
(以下引用)
音楽療法、絵画療法、さらに俳句療法、短歌療法などの芸術療法もその導入の仕方によっては、実存療法的になる。
自分で歌を歌い、絵を描き、短歌を詠む。これらはすべて自己表現の方法である。芸術に没頭しているとき、私たちは、我を忘れる。芸術が私たちを癒してくれるし、さらにそこにカタルシス(浄化)が起きる。うっ積した感情、高ぶった感情、沈滞した感情がコントロールされるだけではなく、さらに患者さんをより高次へと導いてくれる。
これらの方法は人間の感性に訴えかける方法でもある。人間の精神性には、芸術を堪能する機能がある。さらに、ユーモアを楽しむ機能もある。しかし、人が絶望の縁に立ったり、病の床についたりするとき、芸術も、ユーモアも遠い存在になる。だから、人間性を取り戻そうとするときは、むしろ、こうした芸術やユーモア(落語など)を導入したほうがよい。忘れていた感性が取り戻せるからだ。
これらの芸術療法は、治療者のアプローチの仕方や態度によって、心理的・社会的・実存的いずれのレベルにもなりうるだろう。芸術療法は心理・社会・実存的アプローチの場を与えてくれる。
引用文献:『〈死にざま〉の医学』, 永田勝太郎, 日本放送出版協会, 2006, p.165-167