
学術雑誌『Comprehensive Medicine 全人的医療』(2017) に掲載された、永田勝太郎先生の巻頭言をご紹介します。
(以下引用)
1996年8月、ギリシャのコス島で開催されたメディカル・オリムピアドに参加する途中、私は北海道大学の西風脩名誉教授、古屋悦子准教授とともに、ウィーンのフランクル博士 (Frankl VE) を訪れた。ギリシャでは、「全人的医療」の国際シンポジウムを主宰することになっていた。
夏も終わり、まだ秋風が吹くには早い残暑厳しいウィーンの自宅で、フランクル博士はいつもと同じように、にこやかに私たちを迎えてくれた。私はそこで、フランクル博士に17-KS-S(前駆物質がDHEA-S)、17-OHCS(前駆物質がcortisol)の話をした。
「先生、これらの指標で、人間の実存性が客観的に評価できます!
ちなみに、西風脩先生は、17-KS-Sの発見者である。
フランクル博士はたいそう驚いて、こう叫んだ。
「すごい!うーん、科学はそこまで進んだか!」
そして、言われた。
「永田君、僕の学問は政治、哲学、心理学、いろんな分野で使われている。それはそれで、たいへんにうれしいことだ。しかし、僕は一介の医師でしかない。本当は、僕の学問は医学領域で使用されることが最も望ましいと考えていた。それを君に託したい。」と、言われた。
私はその時の先生の輝くような、熱いまなざしを今でもよく覚えている。残念ながら、先生は翌年の初秋に亡くなれられた。
しかし、私はあの時の先生に託された思いを忘れることができない。先生は、単なる精神医学者ではなかった。医学全般に精通した、全人的医療学者であった。患者にとっては、本物のヒューマニストであった。
先生の最後の言葉は、「私の人生は患者とともにその意味を探すことにあった」であったと聞いた。
あの秋の日の先生の熱いまなざしが私の心に深く焼き付いている。
引用文献:永田勝太郎. 巻頭言 フランクル博士の望んだこと. Comprehensive Medicine 全人的医療. Vol.16, No.1. (公財)国際全人医療研究所. 2017. p.1