全人的医療の実現を目指して、永田勝太郎先生の志を継ぎ再出発をする
第10回国際全人医療学会 大会会長
加藤
眞三(慶應義塾大学名誉教授)
2022年11月11日永田勝太郎先生が急逝されたことに、私たち会員は、驚きと悲しみに包まれました。本研究会は永田勝太郎先生個人のご尽力とその広い知識と人脈、そしてご人徳により支えられて続いてきました。永田先生がこの世から旅立たれた後に、この会を続けることは難しいのではないかと私は漠然と考えていました。しかしながら、先日、永田先生の夫人が私のクリニックを訪れ、永田先生の遺志を継続するために研究会を開催したいと相談してくださったことから、私はこの研究会を継続させなければと考え直し会長を引き受けました。
私は、永田先生のもってこられた「全人的医療を実現させたい」という夢に共鳴し、本研究会に参加してきましたが、永田先生の心身医学や実存療法に関する博学や深い洞察力にとても及びません。また、永田先生と私では、性格や対人関係の作り方、医療における手法も異なっていることを認識しています。しかし、余りにも人間が分断される現代の医療、科学的な医療にあきたらず、医療に人間性を復活させたい、全人的医療を実現したいという気持ちは、永田先生に劣らずにもってきました。難病や慢性病の患者の患者会に参加したり、キッペス神父からスピリチュアルケアを学び、上智大学グリーフケア研究所の演習にも参加してきました。それらの経験を通して、私も何とかこの会を継続し発展させたいと考えています。
本研究会を継続するにあたり、私は会の原点に立ち戻り、そこから学び、どう活動していくかを皆さんと一緒に対話をしたいと考えています。そして、その原点は、永田勝太郎先生の全人的医療であり、V. E. フランクル先生の実存療法にあります。フランクル先生が実存分析(実存療法、ロゴセラピー)を最初に問われたのは、解放されて間もなくの1946年に刊行された「死と愛」の中です。日本語タイトルは「死と愛」(みすず書房)ですが、原書のタイトルは“Arztliche Zeelsorge”です。これは直訳すれば、「医師による魂のケア」です。現在の医療は複雑化し多職種により行われるものとなっているため、今日の状況で意訳すれば「医療職者によるスピリチュアルケア」に相当します。
永田先生は、多職種の医療者とチームを組み医療職によるスピリチュアルケアを包含する全人的医療を探求してこられました。永田先生が毎月続けてこられたバリントグループワークも再開しています。対面での大会の開催はコロナ禍により3年間中断されてきましたが、永田先生が亡き後に大会を再開するにあたり、全人的医療とスピリチュアルケアの普及を目指す医療者としてこれから何ができるかを皆さんと対話し、学ぶことにより、活動を拡げていきたいと考えています。
どうぞ皆様、永田先生そしてフランクル先生の遺志を生かすために奮って大会にご参加下さい。