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【書籍紹介】「瀉法」と「補法」(『こころを癒し からだを癒す 全人的医療の知恵』永田勝太郎 著)

1996年、医学の始祖ヒポクラテス生誕の地、エーゲ海のコス島(ギリシャ)で第一回国際医療オリンピックが開かれた。その成功に大きな貢献を果たした永田勝太郎先生が、翌年出版したのがこちらの著書『こころを癒し からだを癒す 全人的医療の知恵』(海竜社)です。

 

今回は、全人的医療を理解するための基礎として、「瀉法」と「補法」という概念をご紹介します。


医療における人間の復活

 

 イソップ物語に、『北風と太陽』という話がある。旅人のコートを、どうやって脱がせるか、北風とお日様が競争をする。北風は、ひゅーひゅーと吹きつけて、無理やりコートを脱がせようとする。一方、お日様は、ぽかぽかと暖かい日差しを送る。すると旅人は、すっかり良い気持ちになって、いつしかコートを脱いでしまう。

 

 病気になったときの治療法にも、北風式と、お日様式がある。

 現代医学(近代的西洋医学)は、すでにできてしまっている病巣をどう取り除くか考え、そのために抗生物質で細菌を殺したり、放射線療法で腫瘍細胞の成長を押さえたり、解熱鎮痛剤で熱を下げたり、痛みを押さえたり、外科的に腫瘍を切除したりという、むしろ北風的方法が得意である。こうした方法は、キュア(※)に貢献し、人類の生命の長さ(量)を延長させることに成功した。私たちはこうした方法を「瀉法(しゃほう)」と呼ぶ。

 

 一方、伝統的東洋医学や心身医学は、健康な長寿をどう創るかを大きな目標としている。これらの医学は、包括的な人間観、医療観を持ち、生体の内部からゆがみを是正するような方法で治療していく。これは、お日様の方法に近い。お日様的方法とは、言わば、人間が生来有している、人間固有の内なる治癒力(恒常性、ホメオスタシス)を遺憾なく発動させる方法であると言えよう。こうした方法を私たちは「補法(ほほう)」と呼ぶ。

 

 瀉法、補法ともにそれぞれ長所と短所がある。どちらが良い、どちらが悪いという問題ではない。患者一人ひとりの病状に応じて、必要と考えられる方法を使い分けることが重要である。瀉法と補法のバランスの妙である。

 

 クオリティの高い医療とは、北風も、お日様も、患者という一人の人間のために使い分けることから始まる。」

 

引用文献:『こころを癒し からだを癒す 全人的医療の知恵』永田勝太郎, 海竜社, 1997, p.14-15

 

※キュア:治癒を目指した医療行為