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【書籍紹介】実存的な人間理解と現代社会『ロゴセラピーの臨床 実存心身療法の実際』永田勝太郎 著

今回は、1991年に出版された『ロゴセラピーの臨床 実存心身療法の実際』をご紹介します。

 

30年前の社会と現在の社会は、経済的な側面は状況が一変しているものの、その中で生きている我々の本質的なありようや課題は何ら変わっていないのではないでしょうか?


(以下引用)

 

 ここで、実存的な人間理解の方法と現代社会との結びつきについて考えてみよう。

 

 第2次世界大戦後、わが国は、歴史上まれに見る経済成長を果たし、近年経済界を中心に世界のリーダー的役割を果たすに至った。

 

 今日、わが国ほど豊かで、自由な国はない。しかし、一方、物質文明の果てしない進展のなかで、人間の精神は荒廃し、多くの市民がストレスにさいなまれ、周囲の社会への過剰適応を強いられ、その結果、失感情症(自らの感情に対する気づきが失われてしまった状態)、失体感症(自らの体感に対する気づきが失われてしまった状態)状態に陥り、挙句、自己破壊的ライフ・スタイルを余儀なくされ、多くの病に倒れるようになった。

 

 最近マスコミを賑わし、市民を驚愕させている働き盛りの「突然死」、心筋梗塞、また、癌死の問題は、その最たるものである。

 

 また、増加の一途をたどる思春期の拒食症(神経性食欲不振症)は、人間の食欲という、もっとも基本的な本能、侵されてはならない個体維持の本能すら侵されてしまった疾患ともいえよう。

 

 さらに、今日、わが国の自殺者数は、なんと、交通事故死より多いのが実態である。

 

 こうした現象は、人間が、その自らの「生命の尊厳」すら忘れて適応し、また、この世に、「生かされ、生きている」という事実のありがたさすら忘れてしまい、さらに自分にしかできない、かけがえのない自分らしい人生を創造する意欲すら喪失してしまった結果であるとは、言えまいか。そうした人々のどこに、主体的に生きる意味を見出せようか。

 

 これは、まさに「人間性の喪失」(自己疎外)そのものである。それは、精神の荒廃、人間不在を意味する。

 

 そして、今日求められているのは、「人間復興」そのものである。

 

(引用文献:『ロゴセラピーの臨床 実存心身療法の実際』監修 内田安信、高島博・編集 永田勝太郎、医歯薬出版株式会社、1991年、p.19-20)