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【書籍紹介】身心一如とbio-psycho-sociail health:『脳の革命』永田勝太郎 著

1995年に出版された永田勝太郎先生の著書『脳の革命』から、東洋の身心一如と西洋の身心二分論、そして全人的医療の基本である健康観の関連について書かれた箇所をご紹介します。

 (以下引用)

「身心一如」は、東洋の健康観です。身体は心に影響し、心も身体に影響します。私たち生きている人間は、例外はあるものの、一般的には身体を病むときは心も病み、身体が健康なときは、心も健康です。心を病む時は、身体も健康とは言えません。

 風邪をひいて熱を出してニコニコしていられる人はいませんし、また、抑鬱的になって「死にたい」と思っているような人が、元気にマラソンすることもできません。いつも、身体と心はひとつで、相互に深い影響を与え合っています。

 

 ところが、西欧の科学主義においては、デカルト以降、身心二分論がまかりとおり、身体と心を別々のものと決めつけてしまいました。そして、身体の医学を行う身体医学と、心の医学を行う精神医学とを、まったく別なものにしてしまったのでした。

 そのため、身体を診る医師(内科医・外科医など)は、あまり心のことは考えず、また精神科医は、おもに精神病しか診療しなくなってしまいました。その弊害が、今日の「現代病」に、象徴的に現れていると言えましょう。

 

 そこで最近になって、あらためて身体と心、あるいは病気と心というものについて、光が当てられるようになりました。心身医学(心療内科)は、その光を当てるための一つの方法と言ってよいでしょう。

 この考え方は、むしろ東洋的な考え方でもあります。冒頭に述べたように、昔から東洋では「身心一如」という経験則が述べられてきたくらいですから。

 

 さて、医学・医療は、基本的には総合的人間学であります。人類の到達した自然科学・人文科学・社会科学の成果を駆使して、個々の患者さんを病気から解放し、健康を創っていくことが目的です。その実践には、患者さんを、「今、ここで病に苦しんでいる人間」として理解していく必要があります。今までの話で、心と身体が切り離せないことは分かっていただけたと思いますが、果たしてそれだけで人間存在を理解できるでしょうか。人間が社会的な生き物である以上、ほかの人間、すなわち社会環境が、いろいろな意味で個人生活に、当然、影響を与えることに気づきます。

 

 ならば、身体と心と社会、これらをひっくるめて健康問題をとらえる必要があるのではないかーーその考え方からバイオ・サイコ・ソーシャル・ヘルス (bio-psycho-social health=身体・心理・社会的健康)という言葉が生まれました。

 人間を捉えるには、「身長、体重、各臓器の特性、病気の有無」といった身体的な見方と、「どういう性格か、物事にどう反応するか」といった心理的側面、そして、「どういう環境で生きてきたか」という三つのディメンション(次元)から見るのが、このバイオ・サイコ・ソーシャル・ヘルスや、全人的医療の基本であります。

 

 なるほどとお思いになりますか。ちょっと昔を振り返ってみてください。

 学校あるいは社会に出て、それぞれの専門分野に進んだ方も、それ以前に、自然科学、人文科学、社会科学を学んだのではないでしょうか。その三つの分野を総合して人間を見ようというだけのことです。しかし、こうした医療観・人間観は、米国で、1980年代になって、初めて形成されました。

 

引用元:永田勝太郎『脳の革命』PHP文庫, 1995, p.176-178