第1回国際全人医療学会は、1993年のビクトール・フランクル博士の来日を機に、東京で結成されました。
その時のフランクル博士の講演録「フランクル先生と21世紀の医療と人間を語る」が、永田勝太郎先生の著書「人生はあなたに絶望していない ーV・E・フランクル博士から学んだことー」(致知出版社, 2017)に掲載されています。
以下に、本書の第三章「人生はあなたに絶望していないービクトール・フランクル先生来日講演録ー」より一部を抜粋して、フランクル博士が語った言葉をご紹介します。

私は何十年間も本の中にいろいろ書いてきましたが、その中から多くの批評家がある文章を引用してきました。それは「フランクルは、著書の中で、悲劇的な状況の最中にあっても囚われの人の精神は、芸術や自然の美による感動を受け入れるだけの余地をもっていると、書いている。
例えばフランクルがバラックの一つにいた時、ドアが突然開いて囚人の一人が来て『早くおいで、見たこともないほど美しい日の入りだよ』と言ったことがあるのをはっきりと記憶している」と。
これは感動する精神についての一つの事例だと思います。
これは「自己超越」と呼んでいる行為です。
自分だけが美の感銘を受けようとするのではなく、他の人にもそれを伝えること、悲しみや悲観主義というものでも、自分だけに納めておくのではなくて、自分を忘れて人に話すことによって自分の苦しみも軽くなるのです。
人を愛するということはそういうことにもつながります。
自分自身を無視するということではありませんが、自分自身を超えて人を愛するということはそこから出てくるわけです。
そうやって、人は自分自身を高め、自分自身を客観視します。
こういうことができる生き物は人間だけです。自己に対して距離をおくことによる自己超越です。どのような人ももっている人間特有の能力です。これは収容所での具体的かつ残虐な現実から例証することができます。
自己超越は人々が日常的に無意識のうちに繰り返し行っています。別に、説教したり教えたりということに関係なく、人は自己超越を行って生きており、そのようにして本当の意味での人間になっていきます。
自己実現というものは、それだけでは意味を持ちません。自己実現とはすばらしいことですが、それは人が自分自身を忘れ、自分より高い理想や他人に対して自分自身を委ねるところまで自分自身を大きくしてはじめて可能なことです。
正確には、そのようにしてこそ自己実現は可能となります。つまり、エイブラハム・マズローの学説にもあるとおり、自己実現とは、求めたり、意図して得られるものではなく、自分をまったく忘れ、何かに、あるいは誰かに委ねることによって可能となる意図せぬ副次的結果です。結果として意図しなかった自己実現が行われます。
(引用文献「人生はあなたに絶望していない ーV・E・フランクル博士から学んだことー」永田勝太郎・致知出版社・2017, p.165-166)
「ヴィクトール・フランクルと全人的医療- ヴィクトール・フランクル生誕120年 -」第12回国際全人医療学会大会を開催します。
日時:2025年10月5日(日)10~17時
会場:日本教育会館 7階 中会議室(東京都千代田区一ツ橋2-6-2)
(2025年8月31日まで早割受付中)