
今回は、雑誌「集中 」2013年2月号に掲載された永田勝太郎先生のインタビュー記事を一部抜粋してご紹介します。
(以下、月刊誌「集中/MedicalConfidential 」2月号より引用)
現代の医療に欠けている「生きる意味」
◇実存療法は医療にどう生かされるのですか。
永田 日本を含めた先進諸国では生活習慣病が増えています。遺伝的な要因に加えて、その人のライフスタイル(生活習慣・生きざま)が、発病に大きく関わっています。「ライフスタイル」とか「生活習慣」といった言葉を使っていると、「それを変えましょう」という話になります。これまでの食事を続けていたら、糖尿病が悪化するし、動脈硬化も進行してしまうから、生活習慣を変えてください、というわけです。しかし、何を、どう食べるかというのは、まさにその人の「生きざま」に関わる問題です。血糖値が高いから変えてくださいと言われて、「はい、そうですか」と変えられるようなものではないのです。ところが、医療の現場では、医師が患者さんの生きざまにまで踏み込むことはしません。踏み込まなければ、患者さんの本質的な問題は見えてこないでしょう。だから、いくらメタボ健診を行い、生活習慣を変えましょうと言ったところで、成果が上がらないのは当然です。人間の実存性、それは生きる意味とイコールですが、そこまで踏み込む医療が必要とされているのです。
◇どうすれば食事を変えられるのでしょう?
永田 血糖値の高い高齢者がいたとしましょう。この人に、血糖値が高いから生活習慣を変えましょう、食事のカロリーはこれだけに制限して、といくら指示しても、うまくいきません。いろいろ話を聞いていくと、孫娘がいて、その孫の成人式の振り袖を買うために、貯金をしていることが分かったとします。そうすると、「このままの血糖値が10年も続いたら、失明する危険性がある。せっかくの晴れ姿を見られないよ」という話ができます。「それはまずい」ということになるでしょう。それが食事を変えるという行動変容に結び付く。つまり、治療に意味を持たせるのです。実存療法というと、言葉は難しそうですが、ごく簡単に説明すればこういうことなのです。
引用元:永田勝太郎. 「学会/研究会Front Line─生きるための意味を大切にすることで人間の実存性を重視した全人医療を実現」. 集中/MedicalConfidential 2月号, 集中出版社, 2013. p.20-21